ボロロ族の装飾

(「ボロロ族の集落-2」の続き)

クロード・レヴィ=ストロース著「悲しき熱帯II」第6部「ボロロ族」より。

(ボロロ族の)氏族は、神話や伝承や踊りや社会的宗教的役割などの資本を所有している。神話は神話で、ボロロ文化の最も興味をそそられる特徴の一つである。工芸上の特権の基礎になっている。所有者の氏族や亜氏族が識別できるように、ほとんどあらゆる物に紋章が付けられている。紋章における特権は、特定の羽根や羽根の或る種の色を用いること、羽根の切り方や切り込みの付け方、異なった種類の色の羽根の組み合わせ方、繊維の織り方とか羽根のモザイクなどの或る種の装飾の遣り方、特別の主題の使用などのうちにある。例えば、儀礼用の弓は、氏族毎に決められた規定に従って羽根や樹皮の環で飾られている。矢柄(やがら)の本(もと)には、矢羽根のあいだに標識となるような飾りが施されている。繋ぎ合わされた唇飾りの螺鈿(らでん)の部分は、氏族によって、楕円形、魚形、矩形、その他の形に切り取られている。縁飾りの色も様々である。踊りのとき身につける羽根の冠には、踊り手の氏族を示す標識(普通、羽根を切り刻んで貼り付けたモザイクで覆われた木の板だが)が付いている。

(中略)実用品の質素さと対照的に、ボロロ族は、奢侈(しゃし)と想像力のすべてを衣裳、いや少なくともそのアクセサリーに――というのは、衣裳は極めて簡素だから*1――注ぎ込んでいる。(中略)男たちはまた、祭りの日には、大アルマジロ――この体長一メートルを越す穴掘りの得意な動物は、第三紀以来ほとんど変化していない――の一対の爪に螺鈿細工を施し、羽根や木綿の総(ふさ)をあしらった三日月形のペンダントを付ける。羽根で飾った茎に取り付けた巨嘴鳥(おおはし)の嘴(くちばし)、冠毛の束の数々、竹を割いて紡錘形にして白い綿毛を張り付けたものから迸(ほとばし)り出ているアララの尾の長い羽根などが、彼らの項(うなじ)の毛――自分の毛であれ、取り付けたものであれ――をヘアピンのように逆立たせ、額を円形に囲んでいる羽根の冠に後ろから釣合いをとっている。時として、これらの装飾は組み合わされて複合的な一つの髪飾りを成しているが、踊り手の頭にこれを拾い上げるには、何時間もかかるのである。私は、銃一挺と交換に、その一つを〔パリの〕人類博物館のために手に入れたが、それも八日間交渉を続けた挙句のことであった。(中略)この髪飾りは、扇の形の大冠と、顔の上部を覆っている羽根の廂(ひさし)と、アメリカ大の羽根を植えつけた棒から成る、頭を囲む円筒形の高い冠と、羽根や綿毛を貼り付けた茎をこんもりした形に差し込んである、編みものの円板とから成っている。全体は、ほとんど高さ二メートルにも達する。

 儀式用の身形(みなり)をしていない時でも、装飾への嗜好は大層強く、男たちは、絶えず何か身を飾るものを工夫している。(中略)この屈強の大男たちが、自分を美しく飾る作業にどれだけ打ち込んでいるかを知るためには、「男の家」の中に入ってみる必要がある。あちらの隅、こちらの隅で、或る者は裁ち、或る者は何やら拵え、彫り、貼り付けている。河で獲れる貝殻は、細かく割ってから平たい石の上で力を籠めて磨かれ、首飾りや唇飾りにする。竹と羽根で、思いも掛けないような構築物が組み立てられてゆく。沖仲仕さながらの頑丈な男たちが、着付師にも似た細心さで、互いの綿毛を膚(はだ)に直に貼り付け合い、ひよこに変身する。

「装飾」というと、どうしても真っ先にアドルフ・ロースの「装飾と犯罪」(1908年)*2を連想してしまう(笑)。一方、ポストモダン建築*3で知られている建築家の原広司は、集落調査を行っている。

(続く) →「アルンタ族の風景

まっ、「装飾」に関しては、「悲しき熱帯I」第5部「カデュヴェオ族」の「ムバヤ族」のほうがスリリングである。でもこれは怖すぎて書けない。

*1:ボロロ族は裸族だから、の意

*2:旧ブログの「Natural World-1」の記事参照

*3:旧ブログの「Integral Project-3」の記事の2参照(「時代はモダニズムからポストモダニズムへ」)