H&Mモデル

(前回の「モダニズム」の続き)

…えっと、モリス(ウィリアム・モリス、近代デザインの祖)*1について書く前に、先週の日本経済新聞(2010年1月5日)の連載「危機後 産業潮流(3)」、「北欧発 新価格 割安感・デザイン両立」の記事のメモ。

(前略)H&Mは世界35ヵ国に約2000店を展開し、08年度(08年11月期)の売上高は1040億スウェーデンクローナ(1兆3500億円)。店舗は主に大都会の一等地に賃借で設けてステータスを高め、毎日のように新商品を導入するモデルで急成長した。この10年間で店舗数と売上高をそれぞれ3〜4倍に増やした。

先月の「闘うレヴィ=ストロース」の記事で、「(前略)「H&M」(や「ユニクロ」)のような「低価格」で商品を売る店が都心に進出しているという現象は、少し新しいかも知れない(少なくとも中心地理論では説明できない。ひょっとしたら、採算性を度外視して、ブランドの「広告」的効果を狙っているのかも知れない←超適当に書いてますw)」と、まさに超適当に書いたのだけど(w)、これ(上記)はその答えかも知れないなぁーと思いました。

まっ、要するに、そういう「(ビジネス)モデル」があるということです(w)。この「モデル」について、もうちょっと丁寧に考えてみると、今世紀の新しい都市像を垣間見ることができるかも知れないなぁーと思ったけれど、そのうち考える(おいおい)。

(追記。少なくとも、中心地理論では説明できないような新しい「モデル」が都心に浸入し始めている、とは言える。更に、この新しい「モデル」によって、都心のステータスが、商品の「価格」(または「希少性」)よりも、道行く顧客と商品の「同時性」のみがある場所へ脱構築*2されている、とも言える*3

以上です。

ついでに、同記事には「イケア*4についても書かれている。引き続きメモ。

 イケアは37ヵ国に約300店を持ち、09年度(09年8月期)の売上高は215億ユーロ(2兆8000億円)。創業者イングヴァル・カンプラード氏が作った財団が親会社で、株式公開の意思はない。
「不動産市況に収益を左右されたくない」と店舗は原則、郊外に取得した自社の土地の上に開く。今期は「いくぶん成長のペースが落ちる」と控えめだ。店内には発売から30年、同じデザインのソファも並ぶ。時間をかけてブランドを浸透させてきた。

この「都心」立地(H&M)と「郊外」立地(イケア)の対比は面白い。

前に別ブログの「アウトレットモール」の記事では、アウトレットモールの「超郊外」立地について書いたのだけど、あ、そういえば、先月、お台場にアウトレットモールがオープンしたらしい。まっ、いいか。ひょっとしたら、商圏的に、お台場は「都心」ではないのかも知れない(←超適当に書いてます、再びw)。*5

 急成長のH&Mと堅実なイケア。好対照の両者が世界を席巻する理由は、低価格を実現するグローバル調達・物流にある。人口が1000万人に満たないスウェーデンで生まれた両社は、早くから世界で戦うコストを意識してきた。
「まず値札をデザインせよ」。イケアは創業者の言葉を守り、モノ作りを価格設定から始める。
 アジア、欧州など55ヵ国、1220の工場から商品を調達する。平たく梱包する「フラットパック」化で輸送費を切りつめる。分解された家具が40フィートコンテナにすき間なく詰められ、そのまま店に運ばれる。
 H&Mも世界700社の取引先から最適な企業に商品を発注する。全輸送の90%以上が船舶や鉄道などでコストのかさむ航空機*6はあまり使わない。アジア生産の商品はほぼ完全に海上輸送だ。精密に計画された大量生産と低コスト配送のシステムで旬を逃さずに店へ届ける。

「低価格」ではあっても、「原価」は驚くほど低い(「利益率」が高い)のかも知れない。そして、

 両社とも商品の生命線となるデザインの多くは内製だ。独自に育てた専属デザイナーが新しいモードを生み出す。イケアは外部の契約者を含め100〜120人のデザイナーを使っているが、核となるのは20人弱の社内デザイナー。H&Mも約100人の社内デザイナーを抱えている。
 周到に計算されデザインされた低価格は、縮む消費に慌て、利益なき値下げに走る日本のデフレとは一線を画す。北欧で生まれた価格とデザインを両立させる事業モデルには、デフレの克服につながるヒントがあふれている。

以上です。

というわけで、今日書くはずの「モリスの建築論」は、また今度にするw、というか、ウィリアム・モリスについて書こうとすると、「マルクス主義」を避けては通れないので、正直言って、気が重い(泣)。*7

とりあえず、土肥誠著「30分でわかるマルクスの資本論」(2010年)を、コンビニで買って読んでみたけど、またタイトルに騙された(泣)。*8

うーん、「資本論(まんがで読破)」(2008年)なら、僕でも理解できるだろうか。*9

(追記)

国産木材利用促す法案 提出へ」(←リンク切れ。コチラへ)
NHKニュース、2010年1月6日)
林業の活性化を図るため、農林水産省は、公立の学校や地方自治体の庁舎などの建築にあたり国産の木材の利用を促す新たな法案を通常国会に提出する方針を固めました。
政府は、温室効果ガスの吸収や、新たな雇用の創出につなげるため、林業の活性化を掲げていますが、その実現には木材の利用をどう拡大するかが課題になっています。このため農林水産省は、公立の学校や病院、地方自治体の庁舎などを建てる際に国産の木材の利用を促す新たな法案を、今月招集される予定の通常国会に提出する方針を固めました。3階建て以下の低い建物を対象に具体的な基準作りを進めており、公共の建築物で率先して国産の木材を使うことで民間の利用拡大を促し、10年後の木材の自給率を今の2倍にあたる50%以上にするという政府目標の実現につなげるねらいです。(後略)

これは良い法案です。「3階建て以下の低い建物」だけではなく「木造5階建て」も含まれるようになれば、更に良い。*10

木造高層ビル」は、環境先進国のトレンドです、キリッ。詳しくは、旧ブログの「表記-9」の記事参照。あと、この動画(「木造6階建て」の耐震実験、2009年7月)も参照。それと、戦後、人工的に大量植林された山林を、複合林に(人工的に)戻す必要もあるだろう。*11

(追記2)

インドのタタ、超低価格車「ナノ」の米国発売を検討も
(ロイター、2010年1月5日)
インドの自動車大手タタ・モーターズのラタン・タタ会長は5日、超低価格車「ナノ」を3年以内に米国で発売することを検討する可能性があると述べた。(後略)*12

(追記3)

後藤和子著「文化と都市の公共政策――創造的産業と新しい都市政策の構想」(2005年)*13第7章「福祉国家から創造的都市へ――スウェーデンフィンランドを中心として」より。

(前略)スウェーデンには、自然の素材(木や金属や織物)を使った手仕事の伝統がある。

(中略)スウェーデンが、工業化により近代国家への道を歩み始めるのは、 19世紀後半*14である。銅と鉄、木材等豊富な自然資源が近代化を支える原動力となる(中略)。1930年代には、古典的なスウェーデン福祉国家モデルが芸術の分野を包含するようになる。

(中略)このように、1930年代に労働者や市民の運動が反映され、すべての人々が平等にその生活のなかで文化を享受するという、生活と芸術や文化との結合が早くから図られているのが、スウェーデン文化政策の特徴である。これは、1946年にJ.M.ケインズの提案により創設されたイギリスの芸術評議会が、ハイカルチャー中心の芸術支援をすすめ、地方の文化や市民への教育を軽視したことと対照的である。

(中略)1930年代になると、(中略)工芸と産業デザインが融合し、ガラス製造などの分野で成功を収めていく。また、アーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けて形成された「高価なものを買える人々ばかりではなく、万人に良いデザインを与える義務がある」という考え方を基盤として、1930年代には(中略)機械生産にも工芸の要素を取り入れるようになっていくのである。

 イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動が当初、モダニズムと対立的であったのとは対照的である。スウェーデンでは、工業化が遅かったからというだけでなく、19世紀後半の労働者や市民の運動とデザイン・工芸の結びつきが強かったために、(中略)産業と芸術の融合がうまくいったという側面もあるのではないだろうか。(中略)それが今日のデザイン産業の国際競争力につながっているのである。*15

(「モリスの建築論」へ続く)

*1:旧ブログの「はちみつ石の景色」の記事参照

*2:別ブログの「雑記6」注釈6の記事参照

*3:新建築2009年12月号」(「安い、ということ」)、別ブログの「イオンレイクタウン-3」(「新しい都市・東京の未知なる可能性」)の記事参照。あと、「不況しか知らない若者世代「おゆとり様」が日本の消費を変える」(ダイヤモンド・オンライン、2009年8月18日)も参照。引用すると、若者世代は「ネット通販ではなく店舗での直買いを好み、納得のいく商品をじっくり選ぶ。少ない予算で自分らしいスタイルでいたいと、注目するのは、やはりユニクロやZARAといったファストファッション・ブランド。他人と比較することなく、個性や自分らしさを重視する傾向が強いのだ。」

*4:別ブログの「イケア」の記事参照

*5:ウィキペディアここ参照。引用すると、「アウトレットモールの多くは、高速道路や幹線道路沿いの郊外、観光地に立地している。(中略)都心部の正規品流通店舗との競合を避け、通常店舗の分布が少ない地域にアウトレット店を置くことで広域から一定の集客を得るためと、そもそもの土地代の安さによって安値販売を成立させるためである。」

*6:レッセフェールの教訓」注釈2の記事参照

*7:別ブログの「アルチュセール」の記事参照(「左翼」)

*8:別ブログの「イオンレイクタウン-2」の記事参照(「ヽ(`Д´)ノ」)

*9:別ブログの「マンハッタンのゆくえ(後)」の記事参照(「『経済学』は苦手」)。 ちなみに、別ブログの「雑記5」に書いた「マンガ ル・コルビュジエの生涯 立志編」(2009年)は結局、買って読んだ。後悔はしてない。。

*10:世界最高層70mの木造ビル計画 オーストリア、20階建て」(共同通信、2009年10月6日)も参照

*11:“森林大国ニッポン”にチャンスあり! 地方銀行が、新たな「森」と「ビジネス」を育てる」(ダイヤモンド・オンライン、2009年2月18日)も参照

*12:闘うレヴィ=ストロース」、「新建築2009年12月号」、別ブログの「タタ・モーターズ」の記事参照

*13:別ブログの「フロリダ」、「雑記6」注釈11の記事参照

*14:十九世紀の罠」、「十九世紀の罠-2」の記事参照

*15:住宅では、スウェーデンの「スウェーデンハウス」とフィンランドの「ホンカ」が日本でも人気がある。とくに、団塊リタイア世代に人気がある(一応、「低価格」ではない。むしろ「高価格」)。旧ブログの「平面図-1」、「平面図-2」の記事参照